2023/10/14
それは素敵な春の一日、僕の部下である新郎新婦の結婚式のため、ふつふつと湧き上がる緊張感が会場を包んでいました。多くの人々がそれぞれの席に着き、僕は上司としてのスピーチの準備をしていました。ちゃんと準備していたつもりで、いつものようにポケットからカンペを取り出しました。
ところが、そのカンペを見た瞬間、僕の顔は真っ青になりました。文字は私の知らない、どこかの外国の文字で書かれていたのです。それはベンガル語だとすぐにわかりました。何故なら、わたしの部下の一人であるラヒマはバングラデシュの出身で、彼女からベンガル語の書き方を教わったことがありました。
これはどういうことだ?カンペはどうしてベンガル語に?ラヒマが冗談で書き換えたのだろうか?しかし、そんなことをする彼女の性格からは考えにくい。だが、カンペがベンガル語で書かれている事実は変わりません。今から新しいスピーチを作る時間なんてありません。
だから僕は深呼吸をして、目の前の状況を受け入れることにしました。スピーチの前半部分を思い出すことはできました。しかし、残りの部分は、完全に頼り切っていたカンペのおかげで忘れてしまっていました。これは想像していた結婚式のスピーチとは全く違う展開でしたが、僕はマイクを握りしめ、ステージに立つことを決心しました。
そして、笑顔を絶やさずに会場に向かって、「今日は、とても特別な日です。僕の大切な部下が、素敵な人と結婚式を挙げています。しかし、残念なことに僕のスピーチのカンペが、何故かベンガル語で書かれてしまっているんです」と話し始めました。
会場は一瞬、静寂に包まれましたが、すぐに爆笑が巻き起こりました。僕の想定外のスピーチに、会場全体がほっとしたような笑い声に包まれました
その笑い声が一段落したところで、僕は再度マイクに向かいました。「しかし、僕は諦めません。せっかくのスピーチの機会ですから、せめてベンガル語で一言でも皆様に伝えたいと思います」と言い、カンペの一行を読み上げました。
それは、ラヒマから教わったベンガル語で、「幸せは日々の小さなことから」という意味の短いフレーズでした。ラヒマは驚いて笑い、それを理解する人々は温かい拍手を送りました。
「そして、それを元にこの二人の幸せを願い、スピーチを続けたいと思います」と言いました。
思い出した限りの前半部分を話した後、残りの部分は全部即興で進めました。というか、その時本当に思っていることで言葉をつむぎました。部下たちと過ごした日々のエピソード、彼らの素晴らしい努力と成長、そして、新郎新婦への願いを、僕なりの言葉で表現したのです。
僕のスピーチは、カンペのトラブルを機に、計画されたものよりもずっとパーソナルで心に響くものとなりました。会場からは笑い声だけでなく、感動の涙も見られました。
スピーチが終わると、会場からは大きな拍手と歓声が湧き上がりました。そして、その中にいたラヒマが微笑みながら立ち上がり、「これはあなたのために用意したサプライズだったんですよ。次回からはちゃんと自分のカンペを見てからスピーチしてくださいね」と言いました。
皆が彼女のジョークを楽しみながら笑い、僕も苦笑しながら彼女に感謝の意を示しました。「ありがとう、ラヒマ。これは本当に思い出に残るスピーチになったよ。」と言いました。
この日以降、僕のスピーチは社内で伝説となり、ラヒマのサプライズは結婚式の一つのハイライトとなりました。そして僕自身も、失敗から立て直す力と、インプロビゼーションの重要性を改めて理解したのでした。
おもしろフィクションですが、大事なことを入れています。